皆さんこんにちは、行政書士の小松です 。
前回までは、遺産分割に必要な法律知識の理解の仕方についてお話をしてきました 。ここでは、相続手続きの全体像について 、分かり易いように以下のフローチャートを使用してご説明を致します 。
法律は万人の公平性を保つように創られている
では、上記の図の①から順番にご説明を始めましょう。
① 相続手続きの開始時期
さて、皆さんへご質問を1つさせて頂きます。
法律上、「相続権が発生する時点」となるのは、被相続人の「死亡した日」なのでしょうか?
それとも、ご葬儀等が一通り済んでから?
質問の意味が良く判らず、少し戸惑いを感じていらっしゃる方も多いかもしれませんよね。
それでは、詳しくご説明を致しましょう。
一般的に相続権が発生する日は、被相続人の「お亡くなりになった日」と思われがちです。
通常のご家庭では、確かに「死亡日」としても間違いではありません。しかし、この表現では、些か問題が生じてくるご家庭もあるのです。
これまでご説明してきたように、相続手続では、法定相続人へ様々な法律上の「権利」が発生致します。そして、大抵の「権利」には何かが付きものでしたね?
そうです。 「期限」でした。
皆さんにとって大切な「権利」が喪失されてしまう「期限」に関しては、「どの時点からスタートさせるべきなのか?」その出発点となる、「権利の発生日」がとても重要となってきます。
例えば、被相続人が亡くなられた時に、ご家族全員が集まられっていた場合でも、前回ご説明したように、被相続人の戸籍を調べて、初めてその存在が明らかになる法定相続人も世の中にはいらっしゃいます。 或いは、仕事のご都合や国際結婚などで海外に在中しているなど、連絡が思うように取れない方もいらっしゃいます。(グローバル社会ですから、色んなことが考えられます)
中には、家出や駆け落ち等が原因で、未だご家族の誰かが音信不通・・・
このように、諸処ご家庭の事情で、被相続人の「死亡」を直ぐには知り得ない方も、世の中には大勢いらっしゃるのです。
では、先のような方達に対して、相続権の発生日を被相続人の「死亡日」としてしまったらどんなことが起きてしまうのでしょう? 次のような不利益を与えてしまうことが考えられます。
- 被相続人が多額の借金をしていたが、その死亡を知った時には、
既に、相続放棄の承認期限(3ヶ月)が過ぎてしまっており、債務引き継ぎの回避がもう出来ない。
(こんなことを認められたら、計画的に誰かに借金を背負わせることも可能となってしまいます!)
- 遠縁の方の多額の遺産を受け取ったが、既に相続税の申告期限(10ヶ月)が過ぎていて、信じられない程、多額の追徴課税の請求を受けてしまった。
(相続を受ける権利が発生したことも知らなかったのに、税金の滞納と見做されるなんて・・・)
このようなことが実際に起きてしまうのです。これでは、とても “ 不公平 ” と言わざるを得ません。
このような事情を考慮した上で、法律上の「相続権が発生する時点」は、被相続人の「死亡日」ではなく、ちょっと長い文章ではあるのですが、「自己のために相続の開始があったことを知った時から」と、法律で は定められております。故に、これが冒頭質問への答えとなります。
② 遺言書の存在確認
遺言書の存在確認は、遺産分割を始める最初の時点で行うべきです。何故なら、遺言書というのは、被相続人の “ 最期に遺された意思 ” として、法律上、最も尊重されているからです。
とは言っても、遺言書というものは、その性質上、その存在をご家族に秘密にしている場合も非常に多く、保管場所についても、日頃から、なかなか見つからない場所へ隠していることが一般的です。
ご家族の間で、無事に遺産分けが終了して一息した後、遺品整理の途中で、「存在しない」と思っていた遺言書を発見。遺産分割のやり直しをしなければならなくなった。といった実例もあります。
では皆さん、ここで、もう1つこんなご質問をしてみましょう。
遺言書が発見された場合、必ず指定された相続人はその内容に従わなければならないのでしょうか?
(遺言書は、家庭裁判所で正式に認められ、誰かの遺留分を侵害するものではないと仮定致します。)
どうでしょうか?ご家族に託された被相続人の最期の意思ですよ!
一般的に考えて、家庭裁判所で検認手続きを終え、正式な遺言書が存在することを認められた場合、その内容に「もう、従う他はない」と考えてしまいがちです。
ですが、遺言書が存在するからといっても、必ずしも遺言の分配内容通り “ 従わなければならない ” というわけではありません。
遺言書の指定相続人(法定相続人)の全員が合意をするならば、遺産分割内容は自由に変更することは可能です。(但し、権利が生じる方の全員が合意することが必要です)
先の例のように、思わずとんでもないタイミングで遺言書を発見してしまった。或いは、遺言書をこっそり空けて見たら、書いてある内容に不満を感じた。などが生じても、絶対に故意に遺言書の存在を隠したりしてはいけません。
遺言書を発見した場合、その発見者には検認手続きを受けるため家庭裁判所へ提出する義務が生じてしまうからです。
もし、遺言書を隠し、後々、他の法定相続人にその隠蔽行為が知られた場合、相続人の「欠格事由」に該当する行為となり、「相続人からの除外」という非常に厳しい処罰を受けてしまいます。
尚、被相続人に成り代わって法定相続人が勝手に遺言書を作成した。法定相続人が勝手に書き替え、改ざん等を行った場合も、同様の厳しい処罰が与えらます。
それだけ日本の法律は、遺言書の存在価値を認めており、反面、 不正行為に利用されるリスクが非常に高いため、厳しい処罰を設け、その行為を封じたものと考えられます。
尚、直筆証書遺言書が封書等に入っており、封印がされていた場合、「いち早く、開封をして中身を確認したい」気持ちとなるのが当然です。しかし、法律上では発見者が勝手に遺言書を開封することを禁じておりますので注意が必要です。
自分で勝手に開封してしまうと、遺言書を改ざん等の危険にさらした行為と見做され、希に5万円以下の過料が科される場合もあります。直筆証書遺言書を発見したら、その取扱いに関しては、十分にお気を付け下さい。
更に、上記のような問題以外にも、「本当に本人(被相続人) の意思によって書かれた物なのか?」といった疑問が、法定相続人の間で持ち上がるケースも多々あります。
ここまでのご説明でも、直筆証書遺言書では様々な「欠点」や「問題点」を抱えていることが、良くお分かり頂けたかと思います。
次回では、直筆証書遺言書の問題点についての整理、公正証書遺言書の利点、検認手続きなどについて、更に詳しくご説明を致しましょう。