老齢化社会を生き抜くための豆知識

第6回 えっ、書く必要のない遺言書

こんにちは、行政書士の小松です。前回に引き続き、相続手続きの流れをご説明致します。

直筆証書遺言書の欠点と問題点の整理

前回、直筆証書遺言書の欠点・問題点をいくつかお伝え致しましたが、例を挙げ出すときりがありませんので、代表的なものだけを以下に取りまとめてみました。

  • 遺言書の保管場所(隠し場所)が判明せず、その存在にさえ気付かれない場合がある。
  • 遺産分割終了した後に遺言書が発見され、遺産分割の話し合いが蒸し返される場合がある。
  • 家庭裁判所での「検認手続き」が必要となり、遺言書内容の把握までにも相当の時間が掛かってしまう。
  • 書き替え、改ざん、故意的隠滅が行われる危険性が生じる。
  • 本当に本人の意思で書かれたものか疑問が残り、相続人間でトラブルを起こす場合がある。
  • 家庭裁判所の検認で「正式な遺言書」としての存在を認められない場合がある。
  • 法定相続人の遺留分に配慮した内容にしておかないと、家族のトラブルを招く危険性がある。などなど・・・

以上を大きく分類すると、「保管場所」「時間の浪費」「真意の信憑性」「文章の正確性」。そして、重要なのは「ご家族へ対する思いやり」なのかもしれません。

とても厄介な遺言書の「保管場所」の問題

 

直筆証書遺言書は、要式(法律効果をもたらす正確な書式)を満たすことが必要であることも然ることながら、もっと厄介な問題はその「保管場所」となります。

折角、遺言書を一生懸命書いたところで、死後にご家族に発見されないと、全くもって意味がありません。

だからといって、日頃から目立つような所へ置いておくと、亡くなる以前にご家族が勝手に遺言書の封を開けて中身を見てしまう危険性が生じてきます。

( お掃除の最中、ご主人の書きかけの遺言書を見つけてしまった奥様。「私のために書いてくれているんだわ!」と大喜び。

その日以来、態度がとても和やかとなり、いそいそ晩酌のおつまみも運び込まれ、お酒をニッコリ注ぎ足してくるようになった。といった、落語のような逸話もあるにはありますが・・・)

大概、遺言内容を読まれた場合、その内容に不満や愚痴を訴えられて内容の変更をして欲しいとせがまれるといった、とても厄介な状況へと発展してしまいます。こうなってしまうと、本末転倒。

遺言書で達成すべき本来の「目的」を完全に見失ってしまう危険性が生じてしまうのです。

こんなに便利!公正証書遺言書の大きな特典

ここからは、公正証書遺言書の利点について直筆証書遺言書と対比しながらご説明を続けましょう。では、ここで恒例。皆さんへのご質問です。

公正証書遺言書の場合も、やはり自分で遺言内容を紙に書かなくてはいけないのでしょうか?

「公正証書遺言というものがあるが、費用が掛かってしまう」ということは、皆さんも良くご存じだと思います。しかし、その費用の「対価」。メリットがどんなものであるか知らなければ、選択することが出来ないとおもわれますので、ここでその「対価」とは一体何なのか?その点についてご説明しようと思います。

  • 公正証書遺言書を作成する際の事務手続き

まず、公正証書遺言書を作成する場合は、下記の2点についての資料が必要となります。

①  被相続人と遺産を相続させたい指定相続人の住民票やその関係を示す戸籍謄本類。

②  相続をさせたい財産価値に関係する資料。

これらを収集又は作成したものを、公正役場の受付の時に提出することが必要です。

上記のような面倒な手続きは多少ありますが、しかし、公正証書遺言書の作成は、特にご高齢者やお体のご不自由な方にとって、最も便利な「特典」のある仕組みと言えます。

その「特典」とは、遺言書の文章を自分で書く必要がないということです。直筆証書遺言書では、「全文を直筆で書かなければならない」という面倒で手間の掛かる非常に「厄介な問題」を抱えている点については、これまでに何度もご説明をしてきました。

有難いことに、公正証書遺言書はこの問題を完全に克服してくれるのです

簡単にご説明をすると、公証役場で遺言書を作成する場合、2つの方法があります。

① 被相続人ご自身が公証役場へ出向いて直接受付を行い、役場の職員と面談しながら自分の希望する遺言内容を「口頭」で伝えて遺言書を作成して貰う方法。

ところが、いきなり公証役場へ出向いても、些か次のような問題が生じてしまいます。

役場の職員とは初対面。緊張のあまり「自分の本意」を上手く伝えることが出来ない危険性が生じます。又、相続財産の内容を詳しく正確に説明するためには、下準備をしておかないとスムーズな作業を終えることが出来ません。

② 士業を介して下準備を終え、公証役場では被相続人の最終的な「意思確認」のみを行う方法。

私達士業は、公証役場へ提出する必要書類の収集や詳細な相続財産目録作成、遺言の原文作成などを代行しております。  被相続人とは充分に時間を掛けて面談をさせて頂き、被相続人のお気持ちやご意向に合わせた文章にまとめ上げます。

勿論、ご本人が納得のいくまで何度も作り直しながら、法律的な要件を満たす文章となるよう公証役場との最終調整まで作業を行います。

どちらを選ぶにせよ、被相続人は遺言の文章をご自分の手で書く必要は一切なく、公証役場で作成された書類にご署名と捺印をするだけで公正証書遺言書は完成されます。

* 被相続人が介護施設や入院されていて公証役場に出向くことが出来ない場合は、公証役場職員が出張の上で面談を行ってくれます。

手書き方法で法律要件を満たす正式文書を一気に完成させることは、一般の方にとっては極めて困難で労力が必要な作業となってしまいます。

ワープロやパソコンで作成可能であれば、文章の追加や訂正などは、意図も簡単に出来るのですが、直筆の場合は簡単にはいきません。

「下書き」から始まり完成された文章へとまとめ上げるには、それ相当 の時間とそれにも益して「完結させる気力」が絶対条件となってきます。その時間や手間を想像すると、公正証書遺言作成に多少掛かる費用については、その「対価」として十分に納得が出来るものと思います。

「本当に本人の意思によって作られたのか?」

法定相続人の間で疑惑が起こった結果として、大きな相続トラブルへと発展する危険性を孕んでいるのが、直筆証書遺言書の大きな欠点とも言えます。

しかし、公正証書遺言書では、公証役場職員が最終的な遺言意思の確認と同時に、被相続人の法律行為を行う能力チェックを面談確認した上で遺言書を作成するため、対外的にも非常に信憑性が高く、先のような問題発生を完全に否定してくれます。このような観点から公正証書遺言書は、家庭裁判所に持ち込んでの検認手続きを受ける必要がないのも特徴的な点です。

つまり、法定相続人へ余計な時間や面倒を掛けることなく、スムーズに相続手続きを行えるのです。

多少費用は掛かりますが、世の中で一番で安全かつ簡単な遺言書の作成・保管方法と言えます。それでは次回では、相続手続きの流れについてのご説明に戻ります。